僕はその少年にとある公園で出会った。その少年は僕にこう話しかけてきた。
「このビー玉で虹が見えるんだよ。お兄ちゃんには見える?」と。
唯の子どもの独り言だと思った僕は何事もなかったかのようにその場を離れようとしたがその少年は続けてこう喋りだした。
「こうやって見るとね、お日さまの光がキラキラして虹が見えるんだ」
少年は右腕を高く揚げながら目を輝かせながらそういった。そのビー玉は透明で透き通っていて何もかもが見えてしまうかのようなものだった。今まで見たことのあるビー玉とは何かが違っていたのだろう。いや、そう自分が思っただけなのかもしれない。
「お兄ちゃんも虹、見て見たい?」
少年の言葉に誘われて「お兄ちゃんも虹、見て見たいな」と答えてしまった。
僕は少年に言われたとおり右手の親指と人差し指でビー玉を持ち太陽のほうに向かって右手を掲げた。暖かい日の光に誘われるかのように高く、高く、右手を掲げた。


見えた。虹が見えた。
透き通ったビー玉の向こうには新しい世界が広がっていた。今まで見落としていた木々の葉が鮮やかに生き生きとして見えてくる。空の色も雲の動きもの木々の揺らめきも何もかもが新鮮で今までの殺伐とした生活が嘘のようにまで思えてくる。いや、嘘でも良かったのだろう。自分がこの地球を感じることが出来た事が、その些細な事が嬉しかった。
お礼が言いたかった、少年に、この地球に、この自然に、この世界に。そう思って顔を少年が居たはずだった所に向けたらそこにはもう誰もいなかった。
少年は鮮やかな世界を僕の心に刻み込んで虹のように儚く消えた。


少年が居たはずの公園の上に広がる青空には綺麗な2本の虹が描かれていた。そういえば先ほどにわか雨が降っていた、そんなことを思い出した。


そんなことが起きたとある日の夕暮れには綺麗な夕焼けが広がっていた。
きっと明日も綺麗な青空が広がるのだろう。
きっと。