交差点 #1
いつも通りの目覚まし
いつも通りの朝食
いつも通りの服装
何も違うことなんてなかった
ニュースも少し昨日よりは暑くなるという天気予報しか頭に残っていない
だからいつも通りに家を出たんだ
家を出て5分ぐらいで辿り着く交差点にいつもと同じくらいの時間に辿り着いた
そこで出会ったのは一人の少女
中学生ぐらいだろうか 制服は着ていなかったけれど
交差点の真ん中にぽつんと立っているのが少し遠くからでも見えた
彼女が普通と違うと気づいたのは少し後だった
少しも動かなかったのに気づいたのが遅れたから
声を掛ける事さえも拒むようなそんな立ち姿だったことは覚えている
だから通り過ぎようとしたんだ 何事も無かったように
関係ないと 何も見ていないと
通り過ぎように彼女の口が動いたんだ
だから僕は彼女に気が取られた
全てを忘れたいと願うかのように
呟かれた一言は
僕の耳に届くや否や
風に攫われて行った
”すぐにでも 全ての記憶を忘れたいの
だから コ ワ シ テ ”
小さな瞳に涙を浮かべたまま振り返った君の手は
時 遅く
紅く 黒く 染まっていた
何故だかはすぐに分からなかった 余りにも唐突で
僕はその体を抱きしめることも支えることも出来ずに
その場に立ち尽くしたまま
唯 叫ぶ人々の声が煩くて敵わないと
場違いな事を考えた
何で僕の体は思うように動かないのだろう
嗚呼
涙も出やしない